秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科は、今年度の複合芸術会議を「複合芸術会議2024ーーガイド|ライン」と題して実施します。企画者である博士課程学生4名は、自身の研究の基盤としてそれぞれ秋田の農村、干拓地、岩手の養豚場、中国の寺院といった具体的なフィールドを持ち、そこからのみ可能な芸術を探求しています。本企画では、それぞれが自身の研究の中心的なテーマについての展示やイベントを開催し、そのフィールドへと来場者を誘います。
津田は、秋田県の干拓地、八郎潟・大潟村での人類学的な調査をもとにした作品展示を行います。当地が辿った歴史的な過程を、干拓事業以前・以後という時間軸からさらに遡って巨視的な視野で捉えた上で、この土地の行く末が先取りされた形としての「山」を問題にします。
小松は、秋田県内各地に伝わる二つの民俗行事「人形立て(人形道祖神)」と「鹿島流し」を取り上げ、シンポジウムを開催します。本学のキャンパス内に展示されている人形道祖神を巡りながら、それらの性格や特徴について解説します。また、本学が所在する新屋地区の代表的な祭り「鹿島流し」についても取り上げ、その歴史や現状について議論します。
髙橋は、岩手県岩泉町で自身が営む養豚農家での活動をもとに、ワークショップを通じて参加者とともに食肉のかたちを探求します。肉は市場経済の中で等価交換される商品であると同時に、そのサイクルに組み込まれる前後において、温かみをもつものとして、またこれから腐敗していくものとして存在しています。そうした肉の感覚的な輪郭を浮かび上がらせ、一つの形へと結実することを狙います。
呉は、中国の礼拝行為に介在する「書籍」に焦点を当て、信仰心を醸成する要素である感覚的な体験を展示において実現します。書籍は、礼拝の感覚的な体験を理解可能な形に組織化することで、参拝者を案内するかのように働きます。と同時に、体験と案内の間には、常にズレが生まれ、異なる意味合いへと転化する可能性をも含んでいます。
こうした企てに共通するのは、フィールドを知ること(案内すること)と、形を生み出すこと(線を引くこと)の関わりです。案内は、フィールドで見聞きされる現実をなぞりながらも、それを完全に言い尽くすことはできず、常に変質やズレを含んだ方向へと、時には予想していなかったあらぬ方向へと軌跡を描くことになります。とはいえ、それは避けられるべきものではありません。どのような理解にとっても、何らかの具体的な線が必要なのであり、突き詰めていけばそれは、視覚的な形としての文字をも含みます。本企画では、このような関心のもと、フィールドからのみ可能な芸術を取り扱うための幾つかの指針を得ることを目指します。
「十分な」理解と概念化、予定調和と画一化に向けた設計基準(ガイドライン)ではなく、作為と誤解を条件として作動する、予期せぬ風景を指し示すための位置どり線(ガイド|ライン)を。
全体概要
複合芸術会議2024 ガイド|ライン
期間:2025年1月24日(金)-2月2日(日)
場所:小松クラフトスペース、ビヨンポイント、新屋NINO、秋田市民市場、アトレデルタ、秋田公立美術大学
主催:秋田公立美術大学
企画:秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科
料金・予約:全回無料・一部イベントについて要予約
問い合わせ先:icta_aa[a]akibi.ac.jp([a]を@に置き換えてください)
各企画の概要
【A】常設サイト「インフォメーション」
期間:2025年1月24日(金)-2月2日(日)10:00-18:00
場所:小松クラフトスペース(〒010-0001 秋田県秋田市中通4丁目17−9)
企画:髙橋雄大、津田啓仁、呉芸舟、小松和彦(秋田公立美術大学大学院博士課程)
内容:
本企画企画者の4名がそれぞれ行う展示やイベントなど各企画の「インフォメーション(案内所)」となるような資料やパネル、作品の展示を行います。各企画についての直接的な説明となるもの、あるいは間接的に喚起するものなど、企画者によってそのスタイルは異なります。
【B】展示「絶維 OBLIQUITY」
期間:2025年1月24日(金)-2月2日(日)10:00-18:00
場所:新屋NINO(〒010-1637 秋田県秋田市新屋扇町84-27)
企画者:呉芸舟
内容:
2024年8月から9月にかけて、中国の東岳観(道教の寺院)で行った法事調査を基に、「ずれ」をテーマにした作品を展示します。宗教的な「ずれ」は視覚や聴覚を通じて、日常感覚の「ずれ」は触覚・味覚・嗅覚を通じて、本という形で表現します。
【C】展示「(株)津田土木建設 会社説明会」
期間:2025年1月24日(金)-2月2日(日)9:00-17:30
場所:ビヨンポイント(〒010-0976 秋田県秋田市八橋南1丁目1−3 CNA秋田ケーブルテレビ社屋内)
企画者:津田啓仁
【D】「(株)津田土木建設 会社説明会」関連トークイベント
日時:2月1日(土) 17:30-18:30
ゲスト:藤田周(文化人類学者)
内容:
日本最大級の干拓が行われた土地、秋田県八郎潟・大潟村を、干拓以前以後という時間区分ではない枠組みで捉えるとどうなるのか。より大きな視点に立つ時、現在の当地にある二つの「山」が、特別な存在感を帯びて浮かび上がります。
【E】上映会「露(このあとどうなるかわかる)」
期間:2025年1月25日(土)-1月26日(日)19:00(上映開始)-7:00(上映終了予定)
場所:アトレデルタ(〒010-0904 秋田県秋田市保戸野原の町7−68)
企画者:津田啓仁
定員:8名(先着順)
申し込みフォーム
内容:
秋田県男鹿市にある安田海岸は、海沿い800mにわたって42万年分の地層が連続して並ぶ場所です。この地層を細かく観察すると、海と陸が交代してきた過程を観察することができます。地層をわかるという状態に向けて、この地を12時間かけて「ゆっくり歩く」映像作品を上映します。
【F】ワークショップ 「流線形統ー豚と肉ー」
期間:2025年1月24日(金)11:00-15:00
場所:秋田市民市場 (〒010-0001 秋田県秋田市中通4丁目7−35)
企画者:髙橋雄大
ゲスト:祐森誠司(静岡県立農林専門職大学教授、日本養豚学会役員)
内容:
岩手県岩泉町の山奥で養豚場を営む背景から、生きた動物である「豚」と市場で流通・販売される「肉」に焦点を当てた食を伴うワークショップを行います。生産者と消費者という異なる地点を複合的な線で結び、「農から食、そして生きること」の様々なエネルギーの転換を表現します。
【G】ワークショップ「森羅万象を文字に」
期間:2025年1月20日(月)-1月23日(木)13:00-16:00
場所:新屋NINO
企画者:呉芸舟
内容:
「文字絵」とは、文字を組み合わせて絵を作る遊びです。日本の「へのへのもへじ」や、中国で縁起の良い四字熟語を一文字にまとめた「合文(ごうぶん)」がその例です。本ワークショップでは、伝統的な合文を創作しながら、文字の視覚的な美しさと可読性の調和を探求します。
【H】トークイベント「人形道祖神と鹿島行事」
期間:2025年1月24日(金)14:30-17:00
場所:秋田公立美術大学大講義室(〒010-1632 秋田県秋田市新屋大川町12−3)
企画者:小松和彦
ゲスト:神野善治(武蔵野美術大学名誉教授、日本民具学会会長)、高橋伸(新屋鹿嶋祭保存会理事)
【I】トークセッション
期間:2025年2月2日(日)16:00-17:00
場所:小松クラフトスペース
企画者:髙橋雄大、津田啓仁、呉芸舟、小松和彦
内容:
会期全体を振り返って、本企画での企図と実際についてのトークイベントを行います。「ガイド|ライン」を通してどのようなことが明らかになったのか、制作や執筆、調査といった様々な角度から話し合います。
【J】ワークショップ「本棚にしまわない本に向けて」※
期間:2024年12月07日(土)、12月14日(土)、12月21日(土)10:00-16:00
場所:秋田公立美術大学大学院棟G1S
企画者:呉芸舟
内容:
本棚を整理している時、本を読んでいる時、あるいは本を作っている時、「本とは何か」と考えたことはありませんか。このワークショップでは、従来の製本ワークショップと異なり、製本の練習をしたうえで、文字通りに「本棚にしまわない本」作りを目指します。
【K】トークイベント「人形道祖神×複合芸術」※
期間:2024年11月28日(木)14:30-17:00
場所:秋田公立美術大学(大講義室+学内ツアー)
企画者:小松和彦
ゲスト:宮原葉月(秋田人形道祖神プロジェクト)
内容:
小松は現在、秋田県内各地に伝えられている「人形立て行事(人形道祖神)」について解説します。宮原はその背景や関わった人々の思いを絵画やイラストに表現する過程を紹介します。終了後、美大校内に展示されている人形道祖神のガイドツアーを実施します。
※既に終了したイベント
複合芸術会議について
秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科では、研究科設置初年度(2017年度)より「複合芸術会議」を毎年開催しています。「複合芸術会議」は、本研究科の研究教育の経過と成果を紹介するとともに、創造領域の最前線で活躍されている国内外のゲストを交えて複合芸術の可能性を多様な視座から検討する、公開型のイベントです。今年度は、博士課程学生の研究活動の紹介を通して、創造領域のあらたな地平を探ることに取り組みます。
複合芸術研究科について
本研究科では、自らの専門領域の外へと果敢に越境し、既存の事物・事象を多角的かつ深層から問い直すことを重視しています。その過程で求められることは、自身の技術や資質を磨くとともに社会へ積極的に介入していくという内的運動と外的運動の往還です。特に博士課程では、より高度な表現と理論、柔軟な発想力と体系的な思索力の複合によって、世界に変革をもたらすような新たな芸術領域を切り開いていくことを目指しています。