複合芸術は、自身の技術や資質を他の専門領域との交わりを通して拡張させる「内的運動」と、外部の社会に介入しそこにある諸要素の複合を積極的に推し進める「外的運動」の並走によって実現する。前者では、素材・技術・手法の尽きることのない複合の試みを通して新たな表現者の力が提案され、後者からは、潜在的な社会的課題が発見されながら新しい役割と社会のかたちが提示される。
専門分化した芸術各領域の「型(かた)」を認めつつ、それを積極的にはぐらかし解体する自由で柔軟な想像力と、新たな表現領域や社会的価値の創造の上に、複合芸術は成立する。
「複合ってなんですか?」
「複合とは、単に二つ以上のものが集まって一つになるだけではなく、異なる領域への越境や手法の併用によって価値の相乗効果を生み、それまでに存在しなかった新たな次元を創造することです。現代芸術の場合、表現者の内と外にある「複合」が不可欠であると考えています。」
「では、内と外にある「複合」とは何ですか?」
「内にある「複合」とは、個人の中に蓄積される表現技術や知識、視野などを掛け合わせて生み出そうとする過程であり、外にある「複合」とは、対象とするテーマを取り巻く背景や人、制約などの状況を捉えて連携・協働・誘導することによって、多様な気づきや拡がりが生まれる過程であると考えています。」
「では、複合研究科では何を研究するのですか?」
「現代芸術を「複合」の視点から学術的に研究してもらいます。具体的には、個々の表現領域の拡張に向けて、文化の多様性や混交性を背景とした複合的な芸術思想や表現形態など、芸術史における複合の事例を紐解きながら、アートイベントやソーシャリー・エンゲージド・アートなどで具体化している複合的な表現等に関する知識や理論を学修してもらいます。さらに、テクノロジーなど情報技術等を組み入れた表現手法の修得などを予定しています。加えて、外的要素への有効な対応手段であるアートマネジメントやソーシャルデザインといった実践的手法を用いながら、取り巻く状況等への対応力を修得したうえで、自らのテーマに基づいた研究をしてもらうことで、芸術領域のみならず広く社会で主体的に活躍できる高度人材を輩出できると考えています。」
「本学の学生だけでなく、全国から現代芸術領域を自ら拡張していこうという意欲的な学生が集まる大学院ということですね!」
「それだけではありません。普遍的な思考力を身につけ、即戦力として活躍できる人材を輩出する大学院なので、企業や社会起業家、行政関係者、もちろん情報産業やローカルメディアからも注目されています。」